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最高裁判所第二小法廷 昭和52年(あ)1808号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人石原秀男の上告趣意一は、憲法三一条違反をいう点を含めてその実質は単なる法令違反の主張であり、同二は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、上告趣意一にかんがみ職権をもつて判断すると、租税逋脱犯における逋脱所得の金額の認定にあたつては、収入と支出とを記載した帳簿書類や収入、支出に関する証言、供述等から直接これを認定する場合のほか、いわゆる推計の方法すなわち、財産・負債の増減、収入・支出の状況、取扱量、事業の規模、対比に値する同業者の業績等を示す間接的な資料から所得金額を推認して認定する方法も、その方法が経験則に照らして合理的である限りにおいては、当然に許容されるべきものであり、要は、それによつて合理的な疑いをさしはさむ余地のない程度の証明が得られれば足りると解される。原判決によれば、本件において被告人のパチンコ営業による事業所得金額の認定に用いられた方法は、被告人のパチンコ営業に関する売上及び仕入の状況を記載した帳簿がほとんど存在せず、売上メモはことさら破棄されているため、(イ) 売上額については、昭和四〇年一〇月四日から同年一二月三一日まで約三か月間の売上額が玉磨場の従業員の記載していた玉場ノートによつて判明するところから、これを基礎として、別途、仕入先の調査等により判明した昭和三九年、四〇年分の煙草及び菓子類の仕入高の指数によつて二年分に引延ばし計算し、(ロ) 仕入額については、前記玉場ノート及び被告人や事務員の供述などから判明した一日平均の売上額、景品出の割合、景品出の利益、これらをもとに計算した出玉率及び景品交換差益率によつて差益率を推算し、これから得られる原価率を売上額に乗じて算出したものであり、このようにして算出された売上額、仕入額、ひいて所得金額は被告人の自認する売上額、粗利益率による計算結果と近似するというのであつて、原審が右の推認の方法は合理的であり、これによつて所得金額が認定できると判断したのは、相当である。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(塚本重頼 大塚喜一郎 栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶)

弁護人石原秀男の上告趣意〈省略〉

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